半導体をワクチンに換える錬金術 台湾の外交手腕

2020年末から世界中をパンデミックに陥れた新型コロナウィルス。その未知なるウィルスに世界が右往左往している時に、厳しいまでの手法で見事に新型コロナウィルスを抑え込んだ台湾。素早く管理面を徹底させた水際対策で、一時期は世界で一番安全な場所、とも呼ばれた。新型コロナウィルスは200日を超えて感染者なしという状況を維持していった。

とは言え、冬の到来とともに、例年ならインフルエンザがおそってくるのだが、台湾にも今年はコロナが襲い、再び感染者が見られるようになった。それでも、ウィルスを抑え込むその徹底ぶりは、一貫している。

そんな台湾ではあるが、実はここに来て苦戦しているのがワクチン獲得だという。台湾は国際的枠組みである「コバックス(COVAX)」に参加している。だが、コバックス自体の供給が需要に追い付いていない状態だ。

台湾では、コバックスから476万本、アストロゼネカ1000万本、その他は現在交渉中というワクチンの獲得数だ。台湾人口は2300万人。まだまだ安心できない数である。新型コロナウィルスの抑え込みには効果がでたが、ワクチン取得に関しては、まだまだ交渉の効果がでていない。

ここで台湾が考えたのが、台湾経済を支える半導体をワクチンに換える「ワクチン外交」否、「半導体外交」だ。コロナ禍も影響して現在、半導体は世界的に不足が続く。他国が半導体を供給できなくなっているにも関わらず、台湾はコロナに関係なく経済活動をしているため、供給が続いており、世界から台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に注文が殺到している。これを利用しないことはないだろう。

台湾は半導体をコロナワクチンに換えられるように、交渉を粘り、ドイツとの交渉が現在進行中である。1月末のニュースでは、日本、アメリカ、ドイツなどが台湾政府に半導体生産の強力を要請しているという。半導体は、自動車にも使用されている。ドイツは書簡で、現在苦境であるドイツ自動車産業への台湾の協力を要請したそうだ。

台湾内では、親中派の議員などから、中国産ワクチンの使用が声高に叫ばれているそうだが、台湾世論がこれを支持していない。中国産ワクチン自体に信頼がないとして、見向きもしないそうだ。そうした共通意識があるため、台湾全体がこの「半導体外交」を理解し応援しているという。

パンデミックという未曾有の事態にあって、いろいろな物が見えてきた気がする。本当に必要なものは何か、本当に大切なことはなにか、新型コロナウィルスは教えてくれた。我慢すること、抑制すること、そしてなによりも、台湾のように一丸となることが大切なことだと思う。それは、家族という小さな単位だったり、学校であったり、会社であったりする。新型コロナウィルスワクチンが開発され、それでも終息するにはあと2年程度を要するなど言われているが、台湾の例をみても分かるように、個々ではなく各単位で一丸となることが、現在一番必要なことだと思えて仕方がない。

昔、こんな話を聞いたことがある。天国と地獄には、本来全く同じもの、同じ食べ物が用意されている。大きなテーブルと長い箸、たくさんの美味なる食べ物があるらしい。しかし、地獄に落ちた餓鬼たちは、個々に自分が食べ物にありつこうと長い箸を我先にとって食べるから、まったくもって口に入らない。だから、隣同士で言い争いや喧嘩が始まる。しかし、天国では「お先にどうぞ」と言って長い箸を使い、正面の人に食べさせてあげる。そのお返しに相手が自分に正面から食べさせてくれる。だから、常に皆が満足で笑いが堪えないのだという話だ。

コロナ禍の世界、不穏な動きが次から次へと襲ってくる世の中であるが、個々ではなく一丸、人を想いやる気持ちを忘れずいたいと思う。